2013年01月19日
カポーティ 『 冷血 』

今日は忘れ得ない小説、トルーマン・カポーティの『 冷血 』をご紹介します。
よく世界の名作100選などに必ず名があがるこの小説は、ノンフィクション・ノベルという新たな
ジャンルを切り拓いたと言われるトルーマン・カポーティの傑作です。1959年にカンザス州で実際に
起きた一家4人惨殺事件の記事を読んだカポーティは、これを次の小説の題材にしようと決心。
すぐさま現地へ向かいます。小さな田舎町は前例のない残酷な事件に動揺していましたが、やがて
2人の青年が容疑者として逮捕されます。カポーティは3年におよぶ徹底した取材と膨大な資料を元に
その後更に3年間かけてこの小説を書き上げます。カポーティが『 冷血 』を書き上げるまでの経緯を
描いた映画『 カポーティ 』を先に観たのですが、刑務所に何度も主犯の殺人犯ペリーを訪ね、彼に
惹かれ苦悩するカポーティを俳優フィリップ・シーモア・ホフマンが熱演し、オスカーを受賞しています。
小説は被害者一家の人物像から暮らしぶり、彼らを取り巻く周囲の人々や生活環境に至るまで
こと細かに描かれていて、二人の犯人に関しては、その不幸な生い立ちや境遇が綿密に調査され
描き出されています。犯人のペリーとディックは非常に対照的な人間で、ディックは陽気な性格で
人たらしなところがあり、一方ペリーはナイーヴで絵を描き、本をたくさん読み音楽も愛する青年です。
このペリーの生い立ちが悲惨で、父親の暴力、母親のアル中、家族の崩壊、養護院で受けた暴力、
足の障害と痛み、その後の転落人生を読む限りでは一条の光も見出すことが出来ず、全く希望のない
絶望的な暮らしぶりが伺えます。カポーティはゲイでアル中で売れっ子作家でしたが、彼自身が幼く
して親と別れ親戚をたらい回しにされて育っていたことから、ペリーに共感を覚え、こんな言葉を
残しています。
「同じ家に生まれ、正面玄関から出て行ったのが自分で、裏口から出て行ったのがペリーだ」
カポーティはペリーに感情移入しつつその命を助けたいと思いながら、同時に小説を完成させるため
には死刑が執行されねばならず、そのジレンマに苦しみます。結局ふたりは死刑になるのですが、
カポーティはその場に立ち会っています。『冷血』を発表したあと、カポーティは一度も本を完成
させる事が出来なかったそうです。この小説は読後、ボディブローのように利いてきてしばらくの間
夜寝るとき、ひとかけらの愛もなく何の希望もない憐れなペリーの人生を思い出してしまい、悲しくて
悲しくて何度も枕を濡らしました。誰にも一度も愛される事なく、人を殺し自らも殺されて人生を終えた
ペリーの為に涙を流す事で彼の魂が浄化されてくれれば…などと思ったりしました。長編小説ですが、
ぐいぐいと引き込まれますので読む体力のある方は是非読まれると良いと思います。
下のがカポーティ本人です。彼の心の闇が伝わってくるようなすごい表情ですね。
